* で り か し ー 。*
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(最初にこちらこちらを読んどいた方が、あとあと笑えます。いや、多分。)

 ワタシの母はデリカシーがありません。

 どれ位デリカシーが無いかと言うと、一家中でかわいがっていた子猫が死んだ時、その埋葬に行って、その猫を埋めるのにしては大分大きい穴を掘り、一緒に生ゴミを埋めてしまう(しかも泣いている子ども=ワタシ、の見ている前で)位、デリカシーが無いのです。

 なのに、母はちゃんとお供え物の煮干しやお線香を持って来ていて、その猫を丁寧に弔ってやる気遣いはあるのです。勿論、夜中に穴を掘ってくれたのも母です。

・・・アンバランスな人だと思います。

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 先日、帰省すると家の様子が全く変わっていました。

庭にあった、プレハブ小屋も、防風林の様に庭を取り囲んでいたかいずかいぶきの木々も、庭の隅に、いつのまにか自生してしまった名も無いすごい大きな木も、父が親戚に頼まれて断れなくて嫌々作った日本庭園風スペースも、そしてワタシが庭の隅に作った、例のクロのお墓も(!)みんなみんな、無い。

 只、ならされてやわらかそうな土が入っているだけ。

玄関前の観葉植物と、二階の窓にはクリスマスのイルミネーション。

 なんでも、母がガーデニングをやりたいとか、畑を作りたいとかでわざわざ業者を呼んで(これで父のわずかな退職金はパァ)一掃してしまったらしい。

 ワタシはそのクリスマスのイルミネーションを眺めながら、あの、川も木も石も全く関係なく、自然をなぎ払い、人間サマだけの都合で碁盤の目にプランテーションしてゆく、アメリカの風景を思い出しながらかーちゃんを思った。

 そういう時、一瞬にしてワタシの頭の中で思い出すかーちゃんは、ムキ(先の猫の名前)を埋める時一緒に生ゴミを放り込んでいる姿だったり、鉢植えのでっかい芋虫を割り箸で掴んだが早いがぽいっと落とし、同時にザッと足で踏みつけてしまう(どうするんだろう、と何気に見ていたワタシと父はその瞬間に貧血)姿だったりする。(でもムキの世話も庭木の世話もちゃんと愛情そそいですんだよな。)

・・・はぁ。

 クロのお墓はもうダメにせよ、墓石にしていた手の平ふたつ分位の丸い石を記念にとって置こうと思い、ワタシはその石を探し始めた。

 実は庭の隅に猫のお墓があったと聞き、父は「石はもう無いよ。(業者が)みんなもってっちゃったよ。」ビールを飲みながら笑って言ったが、その笑いにはほんのちょっぴり(やべ、どーしよっ)というのが含まれていた。

 しかし諦め切れないワタシは、しつこく庭にあった石をお茶の間に持ち込んでは「コレじゃないかね〜」等と言い、父に「それは後から出て来ちゃった石だよ」とか妹に「だって、それって全部土付いてるじゃん、違うよ」だとか言われていた。

 その騒ぎを聞きつけて母登場。なんだなんだと更に騒ぐので、行きがかり上、クロのお墓の事を説明しなければならなくなった。

母は話半分に人のハナシを聞くと笑って一言、


「だ〜いじょうぶ、もう骨なんかとけちゃってるから!」


・・・・ちーがーう!!



そりゃラーメン屋行って

「おばちゃん!指!指!指入ってるよ!

「あ〜だ〜いじょうぶ、おばちゃんの指丈夫だから!

ってーのと同じ位チガウッ!

大体、骨なんか無い。お前があの三ツ辻を掘ったんだろ!(ワタシがあそこは嫌だって言ったのにも関わらず!)

 ふきゃーっ!と尚もワタシが母に説明しようとじたばたしていると、母はやっと何か思い出したみたいで、

「だいたい、猫なんか庭に埋めてないわよ!」

と言い出した。だから最初からそう言ってんじゃん!あの道のどんつきのトコロにね、埋めたでしょ?ワタシが嫌だって言ったのにね、貴女がね、そこを掘ったでしょ?

猫を庭に埋めたことなど無い、と判った母は一言、


「じゃ、いーんじゃん。」 と吐き捨て(台所へサッサと)退場。


・・・っどかーん!!



その直後、ワタシ爆発、完全沈黙。

 ぶすぶすと焼けこげるワタシに妹がエピローグ。

「私もね〜実はあのお墓気になってたんだけどね〜、(会社から)帰って来たら(庭が)もうああなってたし。お母さんにもう何言っても無駄だって思って、もういいやってほっといてたんだよね〜。」

・・・妹よ、お前は正しい。この実家でサヴァイブしているだけの事はあるよ。
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 オマケとしてその後ワタシがどうしたかというと、クロのお墓があった辺りの土を掘り返して、ならされた土の下の元々あった土を(皆の推めもあって)少しビンに入れてとっておく、という事にした。

 お墓なんか所詮、生きている人の為のモノだ。生きている人が死んだ者の事を忘れない様にしたり、思い出したり、思ったり、想ったり出来ればいいんだから。骨があろうが無かろうが、全然別の所の土だろうがなんだろうが、いいんだい。

只、もう二度と掘り起こされるのはごめんだから、今度はビンに詰めて持っていよう。

「ねぇ、何かビンがないかなぁ〜」

ワタシはガラスが好きで、わりに色々持っているのだが手頃な大きさの物が無い、どれもみんな大きいのだ。それでやっぱり同じくガラスをコレクションしている妹に訊いてみたのだ。

「あ〜こないだのボージョレーのハーフボトルがあるけど・・・」

と言いつつも出し惜しむ。妹だって、あんなにクロをかわいがっていたのに。薄情なヤツだ。だいたい妹も芋虫を殺して平気なヤツだった。

 結局、土は(あろうことか)母が持っていたジャムの空瓶に入れられ、そこがクロのさんばんめのお墓になった。